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治療費の打ち切りと対応

本記事は、保険代理店の方、交通事故被害者の方を対象にしています。

目次

いわゆる打ち切り

 交通事故での受傷内容が捻挫・打撲などの場合、3~5ヶ月程度で相手保険会社から「治療費の支払を終わらせていただきたい」「症状固定なので後遺障害の申請をしましょう」と切り出されます。俗に「打ち切り」と呼ばれます。

 被害者の方にとっては、「事故前ほど身体が万全でない感じがするのでまだ治療を続けたい」「いまは良くなってきているが、時期が寒くなってまた悪化しても責任を取ってもらえないから困る」と抵抗を覚えるのも無理はありません。

 他方で、保険会社側にとっては「まだ治らないのはさすがに説明がつかない」「被害者の希望のみで際限なく通院を続けられるとキリがない」というのが率直なところでしょう。

 この問題は、被害者と保険会社が最も対立する場面のひとつです。次の2つのルールについて、保険会社側は法的に正しい言い分だと知っているのに対して、被害者側はそのようなルールが正しいと知らないし、感覚的にも受け入れがたいという構造に、この不幸な対立原因があります。

ルール① 医療費を直払いしてくれるのは任意のサービスである。

ルール② 症状固定により治療費の賠償はなくなる。


医療費の直払いは任意のサービスだった!?

 意外かもしれませんが、実は、保険会社から医療機関へ直払いする措置は、被害者に合意解決(示談)してもらうために誠意で行っているサービスです。もし被害者の方に対して「医療費はいったん立て替えてから請求してください。支払に応じるかは審査して決めますので。」などとはじめから対応をしようものならケンカになってしまいますから、円満に運ぶよう医療費の直払いを申し出るわけです。ほかにも、治療費、治療内容、回復経過などの把握・コントロール目的もあります。

 しかし、加害者側とはいえ「もうこれ以上は支払う義務はない」と考えた時点で、一方的に支払を終了する自由があります。もちろんそれが正しい判断だとまだ決まったわけではありません。どちらが正しいかは最終的に裁判で決着をつける仕組みになっています(いったん被害者が治療費を負担した後で、裁判で請求していく)。

症状固定により治療費の賠償はなくなる

 もうひとつ被害者の方に理解しづらいルールがあります。それは「症状固定」を迎えると、日々の治療費を支払う義務はなくなって、後遺障害に対して「一生分いくら」という後遺障害用の一括金を賠償するルールに切り替わることです。

 「症状固定」は、馴染みにくい概念なので、私は分かりやすさを優先して、「完治に向かう治療効果がなくなった状態」とか「回復に向かっているとは呼べなくなった状態」という説明を用いています。

 症状固定を迎えると、完治に向けた治療効果はないこということなので、治療費を支払う義務はなくなります。その代わりに、後遺障害を一生抱えることに対して、慰謝料と逸失利益(生涯収入の減少)が障害の程度に応じて賠償されます。被害者の方にとっては、身体が元通りに回復するまで償ってもらってしかるべきと思うため、症状固定をもって治療費を払う必要がないという発想には、なかなか受け入れがたいものがあります。

 しかも、後遺障害に対する賠償金で補償するといっても、「検査で異常は確認されないが、痛みや違和感が残っている」という症状では後遺障害と扱う基準を満たさず、無評価に終わることが多いのが実情です。そのため、結局、「後遺障害と扱われるかと思って症状固定を認めたのに、蓋を開けてみたら等級外で無評価に終わった。」というケースにはよく遭遇します。

推奨方針

このような背景や制度から、打ち切りがあったがいまだ症状固定とは認めない場合、私は次の方針を推奨しています。

STEP
健康保険診療でいったん自己負担通院

打ち切りに対して延長交渉はせず、健康保険診療でいったん自己負担での通院を推奨します。

延長交渉は、後の示談交渉時に慰謝料減額などの代償を迫られやすいため、おすすめしていません。

STEP
症状固定を自認した時点で請求額を集計する

医師と相談いただきながら、症状固定を認めた時点で請求額を集計します。医学的見地よりも「加害者に責任を取ってもらう期間はここまでにしよう」とご本人の気持ちに整理がついた時を請求額の締め日にすることもあります。

STEP
自賠責保険へ被害者請求を行う

いったん自己負担した医療費のほか、通院交通費、休業損害、慰謝料を請求してきます。

保険会社がそれまで支払った医療費等を差し引いてもなお自賠責保険金の残枠がある場合には、被害者請求(強制中途清算)をします。被害者請求では、相手保険会社の了解なしに、自賠責保険の審査基準で支払の可否が決まります。そして、自賠責保険から「治療期間が長期間過ぎるので一部否認する」といった判定を受ける例はほぼみられません。それにかかわらず、自賠責保険の残枠があるうちに、不本意に治療を終了しているケースが散見され、被害者の選択権がないがしろになっていると感じています。

STEP
自賠責保険を超過した部分の請求

自賠責保険金を超過した場合、相手保険会社が自己負担する領域になりますので、合意を得るか又は訴訟で決着する必要があります。

まとめ

 治療費の打ち切りに遭った場合、いったん医療費を自己負担し、後で回収する選択肢をおすすめしています。

 

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