MENU

会社が倒産しても社長まで自己破産しなくてすむ制度~経営者保証ガイドライン概説 第1回~

本記事は、経営者、税理士、金融機関の方々向けです。

「経営者保証ガイドライン概説」と題して、主に経営者、税理士、金融機関の方々に向けて「経営者保証に関するガイドライン」(以下、「GL」)の概要を分かりやすく連載していきたいと思います。分かりやすさを優先するため厳密さを犠牲にしています。正確なルールの確認は当事務所や専門家に直接ご相談ください。

目次

経営者保証ガイドラインの概要

 GLは、金融機関が受け入れた業界自主規制です。平成26年2月から運用開始し、9年が経過しました。

 従来、中小企業の社長は、会社が銀行借入する際に保証人になることがほとんどでした(経営者保証)。金融機関の立場からは、中小企業はガバナンスの担保が弱い傾向があるため、社長には保証人として会社と運命共同体になっていただき、その縛りを頼りにする必要があります。しかし、その慣行が行き過ぎて過剰な経営者保証も少なくなかったため、経営者にとっては、リスクをとった事業展開、事業承継、廃業・再起などを阻害してきた負の側面もありました。

 そこで、「経営者保証は例外化・厳格化しませんか」「会社倒産時の社長の支払責任額は相対交渉化できませんか」という要請を金融機関が受け入れるに至りました。それがGLです。主な内容は以下のとおりです。

融資時の経営者保証の例外化・厳格化

 金融機関が融資時に経営者保証を要求するためには、次のような検討や説明を経て、それでもなおやむを得ないケースであることが必要とされます。

  1. 会社資産を担保に取れば足りるのではないか。
  2. 金利の上乗せを引き換えにすれば足りるのではないか。
  3. 上限額その他限定条件のついた保証人で足りるのではないか。
  4. やむを得ず経営者保証を要求する場合には、その理由、予想支払責任額、将来の解除条件の目安などを説明すること。
  5. すでにした既存の経営者保証について見直しの申入れがあれば、同様の検討を開始すること。
  6. 事業承継の場面においても、後継者に経営者保証を要求する際には同様の検討・説明をすること。また、引退経営者の経営者保証を残しておくことが必要か検討すること。

破綻時の保証債務整理(自己破産によらない相対交渉化)

 会社が破綻し、経営者保証の支払責任が現実化した場合、一定の条件を満たす限り、社長の自己破産を省略して、経営者と金融機関の相対交渉で支払責任額を決めて合意決着することができます。個人資産を正直に申告し、差し出すべき範囲の資産を誠実に差し出せば、金融機関の了解のもと残金から解放されます。

 事業の損切りが早かったことにより金融機関の損失が軽減されたといえる場合には、社長へのインセンティブとして自己破産選択時よりも多くの個人資産を残すことが許される特典があり、これが利用の最も大きなメリットとして注目されています。また、いわゆるブラックリストに載らないため、再チャレンジの資金調達のチャンスが残ることなどもメリットです。

 GLが運用開始されるまでは、破産手続が担保してくれるのとは異なり、①個人資産に見逃しがあった場合に責任問題になること、②残金免除の税務上の反映に不安が残ることから、金融機関にとってはリスクだけで応じる動機が乏しいスキームでした。それを解消した意義があります。

まとめ

 GLは運用開始から9年も経ちましたが、まだまだ実務には浸透しているとはいえず、実務者たちの習熟が待たれている分野です。山梨県内での実績例も耳に入ったことがありませんので、これから多くの実績作りに寄与していきたいと思います。

 次回からは各論に入っていきます。

  • URLをコピーしました!
目次