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通勤中の事故は労災利用を検討

本記事は、保険代理店の方、交通事故被害者の方を対象にしています。

 通勤中の事故でお怪我をされた場合、相手保険会社の治療費負担を断って、労災を利用するのが最善な場合があります。ただし、高度な選択判断を要するため弁護士に相談しないと判断は難しいです。

 通勤中の人身事故はすぐ弁護士に相談することをおすすめします。

 労災利用のメリットは次のとおりです。

治療費を負担してもらえる期間が長く確保されやすい

 相手保険会社は、「(事故規模や怪我の内容からみて)もうこれ以上は治療費を支払う責任はないと思う」と考えた時点で負担終了を通告します。他方で、労災利用の場合、保険会社ほど早く強く異議が出ることはありません。そのため、治療費を負担してもらえる期間が確保されやすい特長があります(もちろん医学的に回復途中といえなくなった時点で治療の必要性はなくなります)。

療養で欠勤した場合に休業特別支給金が受給できる

 労災給付には、休業特別支給金といって平均賃金20%の見舞金があります。これは労災利用時だけの特典です。

 ところで、よく調べている方から「労災休業補償は平均賃金60%補償なので、相手保険会社から100%受け取る場合と比べて不利なのでは?」という質問をよくいただきます。この点は「労災から60%補償を受けて、残り40%補償を相手保険会社に請求する」という仕組みになっているので不利にはなりません(特別支給金を加えると、最終的な手取額が120%になっていますね)。

後遺障害の等級審査が丁寧

 後遺障害が残ってしまった場合、後遺障害専用枠の賠償額を決めるのに「等級審査」があります。労災利用の場合、主治医の意見が尊重されやすいですし、症状なども丁寧にヒアリングされるため、悔いが残りにくいです。他方で、労災利用しない場合、自賠責保険の等級審査しかないのですが、書類審査のみで判定理由も形式的で腑に落ちないことが多く、判定結果に不満が残りやすい傾向があります(等級基準は基本同じなのですが、審査ルールが違うため判定が割れることがあります)。

被害者側にも過失がある場合、自己負担になる医療費が節減される

 保険会社が支払う相場よりも労災指定医療費の方が低額です。このことに何の効果があるかといいますと、被害者側にたとえば20%の責任割合がある場合、使われた医療費の20%は最終的に自己負担扱いで慰謝料等から差し引かれますが、その部分が節約される効果があります。

 余談ですが、入院重傷事案で被害者側にも過失がある場合、相手保険会社からは「健康保険を使って欲しい」と求められることが一般的です。これも同じ仕組みで、健康保険指定の医療費の方が低額なため、保険会社と被害者の利害が医療費節減において一致するわけです。被害者側としては「どうして被害者が健康保険を使わされるの?」と心情的に反発したくなるかもしれませんが、実利でいえばこの誘いには応じた方が得策なのです。


 つづいてデメリットもご紹介しておきます。

労災申請の書類記入が煩わしい

 労災申請するわけですので、事故状況、通勤経路、加害者情報など多くの申請用紙を記入しないといけません(余談ですが、役所の様式は意味もなく重複記入ばかりさせるのでいつも辟易とします)。勤務先の体制によっては、慣れた職員さん又は顧問社労士さんが大半を埋めてくださることもありますが、そうでない場合にはそれなりに大変な事務負担です。なお、「労災申請=勤務先に迷惑がかかる」という誤解がありますが、交通事故で労災利用しても迷惑はかかりません。

治療記録の入手が煩わしい

 治療終了後、相手保険会社に慰謝料等を請求するにあたって入通院履歴を見せなければなりません。これを入手するには、労災利用の場合、労働局へ個人情報開示請求をしなければならず、その手続は代理できないルールになっています。ご本人に少なくとも一部は事務手続をしていただくことになります。

休業損害の中間金支払に不利

 休業損害の中間金支払については、労災よりも保険会社の方がスピーディで、60%補償制限もありません。もっとも、「医療費は労災利用に頼るけれども、休業損害は保険会社からの直接賠償を求めます」といういいとこ取りの便法もあって、保険会社も通常応じています(休業に有給休暇を充てる場合、このパターンになるので、基本的に断る理由がない)。もし断られても、ご自身の人身傷害保険に頼る手段も残されていることが多いため、実際にはデメリットが現実化しないことがほとんどです。


まとめ

通勤中の人身事故は、労災利用のメリット・デメリットの判断が難しいので、すぐ弁護士に相談することをおすすめします。

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